「倫太郎帰ってきた。手を洗ってきて、ごはんにしようよ」
「うん。ケーキ持って帰ってきたよ」
帰宅してすぐに、彼女が迎えてくれた。もうごちそうの準備は出来ているよ、と言う彼女にケーキの箱を渡すと、うれしそうな声を上げて「ありがとう」と言った。「凄く混んでたでしょう」そう言う彼女に、「もう凄い混んでたよ、ずっと後ろの方まで並んでて」と言えば、「そうだと思った」と彼女は言った。ただでさえ混んでるケーキ屋だから余計にクリスマスは混むからね、と彼女は可笑しそうに笑って言った。
「倫太郎が取りに行ってくれて助かった」
「そう?」
「うん。今日のご飯はトクベツだから褒めてくれてもいいよ」
「そんなに気合入れて作ったの?」
「まあね」
得意げに言う彼女の言う通り、食卓はいつもの倍は豪華であるように見えた。普段あまり食べないようなごちそうの並ぶ食卓を前にして呆気に取られていると、彼女は「どうよ」と胸を張って言った。「すごい」口から素直にその言葉を漏らすと、彼女は得意げな顔をして「でしょう」と言った。普段のご飯も美味しいけれど、今日のご飯はまた格別に美味しかった。「倫太郎どう?」普段は余りそういうことを聞かない彼女が、そう問うてきた。彼女はよく己に対してご飯を食べているときに美味しいのか美味しくないと思っているのかわからないと言う。あまり口に出してそう言うことを言わないせいかもしれないが──今日だからというわけではないけれども、「美味しいよ」と口にだしてそう彼女に言えば、彼女は満足そうな顔をしていた。「でしょう、今日のは特別だからね」そう彼女が得意げな顔をして言うのに、「いつもおいしいよ」と言うと、彼女はキョトンとした顔をして「そ、そう……?」と言った。ほんの少しだけ照れているのかもしれないと思って、追い打ちをかけるように「美味しいと思ってる」と言えば、目をそらしてしまった。照れ方があからさますぎるだろうとは思うけれども、それは言わなかった。夕食をおなか一杯食べた後で、買ってきたケーキをテーブルの上に広げる。「わあ」彼女は楽しそうな声をあげて、ケーキを見ていた。「これ、食べていいやつなんだよね」そう、彼女が興奮気味にそう言うので、「好きなだけ食べたらいいよ」と返すことしかできなかった。
「本当にケーキ楽しみにしてたんだよ」
「知ってる」
「ほんとうにしあわせ」
ケーキ一つで大げさだね、と言えば彼女は「それでもいいことはいいことなんだよ」と言った。ホールのケーキを切り分けて彼女に渡すと、彼女が幸せそうな顔をしてケーキを口に入れて、「おいしい」と楽しそうに笑っていた。彼女のそんな顔を見ていると、見ているこちらもなんだか悪くないような気がしてならなかった。
2020-12-25