小説

十二月二三日:部屋の電球を交換する話

「ただいま」
「おかえり倫太郎」
「うわ」
「ひどい」
「玄関にいるとは思わなかった」
「帰ってくるのずっと待ってたんだよ」
「ここで?」
「ここで」
「寒かったでしょ」
「ちょっとだけ」
「部屋で待ってなよ」
「早く帰ってきて欲しかったから、待ち切れなくて」
「びっくりするからね」
「びっくりしてたね」
「うん」
「倫太郎が早く帰ってきてよかった」
「ほんとにずっとここで待ってたの」
「待ってたよ」
「何かあった?」
「何かあった」
「どうしたの」
「お風呂にする?ご飯にする?」
「それやるの?」
「うん」
「えー」
「面倒くさそうな顔やめて」
「実際面倒くさいじゃん」
「お風呂にする?ご飯にする?」
「結局やるのかよ」
「やるよ」
「えー」
「お風呂にする?ご飯にする?」
「……」
「それとも電球交換?」
「え?」
「電球交換」
「なんで」
「助けて欲しくて」
「電球?」
「うん」
「切れたの?」
「電球切れて部屋暗い」
「電球交換しろって?」
「うん」
「最初から普通に言いなよ」

:

「うわ、部屋暗い」
「真っ暗だよ」
「電気ほんとにつかないね」
「うん」
「なんか電球切れそうな気配はあったけどさ」
「そう。騙し騙し使ってたのが今日でダメになったみたい」
「もっと早く交換してたらよかったね」
「部屋が暗くなるとそう思うよね」
「明るい時に交換してたらよかったね」
「うん。倫太郎いる時に早くやっておけばよかったって思った」
「ははは」

:

「電球かして」
「届く?」
「椅子に乗りたい」
「どう?」
「椅子乗ったら天井近くて腰痛い」
「わたしがやったほうがいい?」
「乗れる?」
「怖い」
「じゃあ俺がやるね」
「お願い」
「スマホのライトつけて天井照らしてもらえる?」
「こう?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「よし」
「できた?」
「うん」
「倫太郎降りたら電気つける」
「お願い」
「電気ついた」
「お、いいね」
「ありがとう」
「もっと感謝して」
「倫太郎のおかげですごく助かった」
「それだけ?」
「もっと?」
「うん」
「倫太郎ありがとう」
「うん」
「かっこいい」
「うん」
「好き」
「知ってる」
2020-12-23