小説

十二月十九日:テレビで自分の試合を見る話

「ただいま」
「おかえり」
「うわ」
「なにその反応」
「何で見てんの」
「中継の録画この間見損ねたから」
「へえ」
「まだ見てなかったなって思って」
「俺がいないときに見てよ」
「今まで倫太郎いなかったじゃん」
「帰るタイミング失敗した」
「倫太郎と倫太郎の試合見るの新鮮」
「俺は家でも自分の顔見るのが嫌」
「雑誌の時もそれ言ってたね」
「うん」



「鷲尾選手決まった、早い」
「……」
「あっ、倫太郎」
「……」
「すごい、倫太郎今のみた?」
「……」
「倫太郎のスパイク決まったのみた?」
「……それ今見ないとダメ?」
「今見ないでいつ見るの」
「俺がいないとき」
「今みたいから見てる」
「……」
「なんで黙るの」
「俺って中継で見るとこんな感じなんだって思って」
「新鮮?」
「まあね」
「試合会場だとやっぱり雰囲気違うのかな」
「……」
「何その顔」
「来ないでいいからね」
「えー」
「なんでそんな顔すんの」
「今度倫太郎に内緒でチケット取ろうかなって思って」
「テレビで見るのと絶対一緒だから来ないで」
「授業参観に来てほしくない子どもみたい」
「もうそれでもいいから本当に来ないで」
「なんで来てほしくないの」
「はずかしいから」
「倫太郎もはずかしいとかあるんだ」
「あるよ。だから来ないでね」
「ふふふ」
「言うこと聞くつもりないだろ」



「どう?」
「どうって何が」
「プレーしてる自分を見た感想」
「どうもこうもないよ」
「えー」
「俺こうなんだって感じ」
「新鮮な感じしない?」
「あんまり。プレーした時の動画後で見ることの方が多いし」
「復習みたいな感じで?」
「まあ、そう。あと相手の分析とかも兼ねて見たりするね」
「そうなんだ、倫太郎たまに他のチームの試合見ているのはそういうこと?」
「まあ、趣味と実益を兼ねて」
「そうなんだ」
「でもテレビで放送されてる時のやつはこんな感じなんだって思う」
「やっぱり違う?」
「うん」
「へえ」
「だからテレビ消していい?」
「わたしが今見てるからダメ」
「……」



「角名選手今回のゲームについて何かありませんか?」
「ありません」
「何か言ってよ」
「面倒くさいから嫌だし解説喋ってるから俺喋ること無いよ」
「えー」
「うわ、これ止められなかったやつだ」
「今のボール?」
「うん、相手のセッターがうまかったね」
「へー」
「やられたって思ったもん」
「そうなんだ、見てるだけじゃ何もわからないね」
「解説が喋ってるから大丈夫だよ」
「ほんとだ」
「うん」
「あっ、一点入った」
「この後も点取るよ」
「なんでネタバレするの?」
「結果知ってるんじゃないの?」
「試合の結果は知ってるけどまだ見てないから知らない」
「結果知ってるじゃん」

:

「角名選手カッコいい」
「はい」
「なんでやる気なさそうに言うの」
「いやなんかこの流れもうよくない?って思って」
「なんでよ」
「やらないとダメ?」
「ダメ」
「面倒くさすぎる」
「角名選手カッコいい、握手してください」
「いいよ」
「やったー!ありがとうございまイタタ」
「ははは」
「角名選手はファンの子の手を強く握ったりしない」
「そもそも俺ファンの子と握手したことない」
「それは絶対嘘」
「そんな嘘つかねえよ」
「じゃあ手を握ってくれたのは何?」
「特別だから。サービスだよサービス」
「意地の悪いサービスだな」
2020-12-19