小説

十二月十五日:お年玉のことを考えてちょっとげんなりする話

 街じゅうがクリスマス一色に染まっている。ゆく先々のお店の窓に飾られたサンタクロースのイラストや、木々にカラフルな飾り付けや電飾が施されているのを見ると、年末がいよいよ近づいてきていると思う。年末のせわしない空気はあまり、嫌いではない。街中に居る人々が皆、早足で歩いているように見えるのはこの季節特有のものだと思う。その中をゆっくりと歩くのは、結構好きだった。
クリスマスが終われば、次にやってくるのは正月である。この季節は、クリスマス向けの飾りや、食べ物がたくさん並んで華やかになっている部分と、落ち着いた正月飾りや、おせちの広告が同時に貼られているのを見ると、静と動が同じ場所に存在しているように思えてなんだか落ち着かない。どちらか片方にでもしてくれていればまだ違ったのかもしれないが、正月とクリスマスというイベントごとには変わりないけれども、雰囲気は正反対だ。
 一月のVリーグの試合が正月休みをあけてすぐに始まることもあり、正月に実家に帰省するのはやめることにした。実家の妹から、今年の正月はどうするのかとメッセージが来たので、今年の冬は帰省しない旨を伝えると、妹は『そっか』の三文字だけを返してきた。自分も人のことを言えた口ではないけれども、妹もなかなか淡泊なたちをしていると思う。『お母さんがみかん送る?って聞いているけどどうする?』そう聞かれたので、みかんを送ってもらうことにした。「実家からみかんくるって」そう彼女に言えば、「やった」と顔をほころばせて言うので、送ってもらうことにして良かったと思った。妹との短いメッセージのやり取りを何往復かしたあとで、『お兄ちゃん』と妹が急にかしこまってそう言ってきた。『なに』嫌な予感を感じつつ返信をすると、『お年玉よろしく』の文字だけが送り返されてきたので舌打ちをしそうになってしまった。催促をされなければ別に送らなくても良いと思っていたけれども、なかなかうまく事は運ばないらしい。妹の、そういうちゃっかりとしているところは一体誰に似たのか。父親に似たのか、母親に似たのかは見当も付かない。

「どうしたの」
「お年玉どうしようかなって」
「くれるの?」
「なんでだよ」
「ええ、わたしにくれるんじゃないの」
「妹から催促された」
「なるほど」

わたしにくれてもいいよ、と彼女は手をだしてそう言った。差し出された手の上に、自分の手を置くと、彼女がご機嫌な様子で「お手だ」と言うので、力をいれてぎゅっとにぎってやると「痛い」と情けない声を上げたので笑ってしまった。「お年玉あげてもいいけど、俺も貰うよ」と言えば残念そうな顔をしていた。「妹のこういうところ、誰に似たんだろう」そう言えば、彼女は「どういうところ?」と己に問うてきた。

「こういう、ちゃっかりお年玉催促してくるようなところ」
「倫太郎も結構ちゃっかりしてるところあるよ」
「そう?」
「なんかずるいときある」
「あんまり気にしたことない」
「絶対うそ」

結構バレなければ大丈夫だって思ってるところあるでしょ、と彼女が疑わしいものを見るような目で己の顔を見てきた。その視線が気持ちの良いものではなかったので、彼女から目を逸らしてしまったのであるが、それがあまり良くなかった。

「自覚あるじゃん」
「えー」
「倫太郎のそういうちょっと嘘がつけないところは好き」

彼女が頬に触れて、己の顔を無理やり彼女の方に向けられてしまった。彼女のまるい双眸と、己の目があう。してやったり顔の彼女が、己の目をじっと見つめてくるのが居心地悪かった。「目をそらさないでよ」そう、目をそらした瞬間に、彼女は言った。別に目を逸らしたくて逸らしているわけではないんだけどな、と思うけれども今更言い訳したところでどうにもならないので、これ以上何かを言うのはやめた。諦めて彼女の好きにさせていると、彼女は諦めてしまった己の顔を見て満足そうに笑って、「倫太郎のそういうところがカワイイ」と言うので、「別に俺は可愛いと思わないよ」と答えると、彼女は「いいの、わたしだけ知ってたらそれでいいから」と言って満足そうな顔をして笑っていた。
2020-12-15