「どれの話?」
「カスタードかこしあん」
「そうじゃなくて。何の話ってこと」
「たい焼き」
「たい焼き?ああ、目の前のそれね」
「うん」
「どっちもたくさん残ってるね」
「うん」
「悩む?」
「悩む」
「よく悩むよね」
「うん。悩まないようにしようと思うけどうまくいかない」
「悩みすぎなんだよ」
「倫太郎が悩まなさすぎるだけじゃないの?」
「そう?」
「うん」
「たまに迷う時あるよ」
「絶対うそ」
「あるよ。選ばなかった方は次に選ぼうって思うからあんまり拘らないね」
「そうなんだ。次なかったら、とか思わない?」
「無いなら無いで縁がなかったと思うかな」
「へ〜」
「世界の終わりみたいに悩んでるから、よく悩むなっていつも思ってるよ」
「わたし?」
「うん」
「そうかなあ」
「さいごに食べるご飯とか決められなさそう」
「あ〜、それ言われたら悩む」
「それは俺も決められないかもしれないけど」
「倫太郎も決められないの?」
「うん。でも最後に食べたやつが最後のご飯で良いやって思うかも」
「絶対にこれが良いとかないの?」
「いつもおいしいご飯出てくるから、あんまり」
「へへへ」
「何照れてんの」
:
「ていうか悩むほどたい焼き好きだっけ?」
「このコンビニのたい焼きが好きなんだよ」
「へえ、俺食べたことないや」
「もちっとしてておいしいよ」
「家で食べてたっけ?」
「……」
「何その顔」
「口が滑った」
「なに、内緒で食べてたつもりだったの?」
「……まあね」
「別に怒らないし食べたいなら好きに食べなよ」
「ふふふ」
「ほんとに誤魔化し笑い下手だよね」
「そんなに下手?」
「下手だよ、誤魔化しきれてないもん」
「……」
「で、買うの?」
「買う」
「どっちにするの?」
「……」
「決められないんだ」
「うん」
「カスタードとこしあん?」
「そう」
「どっちも買えば?」
「ひとりで二つも食べられない、晩御飯の前だもん」
「一個ずつ買って半分にして食べたらいいじゃん」
「倫太郎に半分食べてもらえばいいんだ」
「それでもいいし、冷蔵庫に入れておいて後で食べても良いじゃん」
「じゃあどっちも買っちゃおうかな」
「そうしなよ」
「倫太郎はどっちが好き?」
「今の気分はカスタードかな」
「へ〜」
「変?」
「カスタードってなんか倫太郎って感じしないなって」
「俺ってどんな感じなの」
「難しい質問するね」
「そっちが先に言い出したんだろ」
「倫太郎なんか食べてる時いつも変わらないから倫太郎っぽい食べ物があんまり思いつかない」
「俺食べてる時そうなの?」
「いつもそうだよ」
「どんなかんじ?」
「おいしいのかまずいのかよくわからない感じ」
「そうなんだ」
「うん」
:
「倫太郎見て」
「どうしたの」
「プリンがある」
「うん」
「……」
「なに、好きなの?」
「食べたことない」
「新発売って書いてるから最近出たやつか」
「そうみたい」
「へえ」
「え〜、プリンもいいな」
「つい今までたい焼きの話してたのに?」
「プリンは別腹じゃない?」
「たい焼きとプリン?」
「そう」
「晩御飯食べれなくなるよ」
「……」
「悩むのかよ」
「プリンの生クリームが美味しそう」
「しかもプリンじゃなくて乗ってる生クリームの方なのかよ」
「そうだよ」
「こしあんにカスタードに生クリームね」
「そう」
「倫太郎はどれがいい?」
「今はカスタードの口になってる」
「さっきカスタードの話したから?」
「そう」
「うーん、今日はやっぱりたい焼きかな」
「ふうん」
「二つ買うし」
「じゃあ俺プリン買って帰ろうかな」
「えっ、倫太郎食べるの?」
「うん」
「……」
「何その顔」
「……倫太郎」
「はいはい、わかったから」
「……」
「すて犬みたいな顔して見てこないで」
「そんな顔してない」
「一個だけ買うなんて意地悪しないから。ちゃんと二個買うよ」
「やった、倫太郎やさしい」
「そう?」
「うん」
「あげるとは一言も言ってないけど」
「……」
「嘘だよ」
「なんで意地悪言ったの?」
「ごめんって」
:
「たまにいじめたくなる時があるんだよね」
「なんで」
「そうやって、すて犬みたいな顔してるから」
「……」
「なんかちょっと意地悪したらすぐそっぽ向きそうな顔」
「そんな顔してる?」
「してる」
「自覚がない」
「自覚があってやってたらそれはそれであざといよね」
「あざとい路線で行こうかな」
「何それ」
「あざとい感じで倫太郎を虜にする」
「はいはい」
「すごくどうでもよさそう」
「うん」
「もう少し興味を持って欲しい」
「何に?」
「わたしに」
「これ以上興味を持てって?」
「倫太郎そもそもわたしに興味ある?」
「無かったら付き合ってないけど」
「へへへ」
「自分で言ってなんで照れるの」
2020-12-11