小説

天罰

「神って信じる?」
「なに、おまえそういうやつに凝ってんの?」
「違うよ、何となく聞いただけ」
「……お前な」
「そんな胡散臭いもの見るような目で見ないでよ」
「最近流行ってるからなあ」
「別に、最近学校で流行ってる変なサークルの勧誘とか、ボーダーに対してゴチャゴチャ言ってるあのへんとか、そういうやつに対するあれこれみたいなやつにハマったとかじゃないよ」
「おーおー。それは良かった」
「で、慶はどう思うの」
「居ないだろ」
「なんで」
「こういうタイミングでする話かこれ」
「そうだね、少なくとも、服を脱いだ後にするような話じゃないね。ほら、この間慶とさ、やったじゃん」
「……お前とやったことに心当たりがありすぎてどれのことかわからん」
「最低」
「勝手にシモ方向に妄想する癖やめた方が良いぞ」
「おれ以外の前でやるなってこと?」
「前向きだなお前」
「前向きな女の子、好きでしょ」
「好き」
「両想いでハッピーだね。話戻すけどさ、この間初めて慶の腕落とした時にさあ」
「おー、あったな。二十本勝負の十九回目」
「よく覚えてるね、それそれ。その時に祈ったんだよ」
「なんだそれ」
「『神さま、せめて慶の腕一本だけでも』って。そしたら腕飛んだからさあ」
「そりゃお前が遅くまで残って弧月振ってたからだろ」
「でも、腕一本以来完敗だし」
「そりゃあ、練習してるのはお前だけじゃないからな」
「だからあれ、奇跡だったんじゃないかなって。あの時の一回だけが神さまがくれた奇跡だったの」
「んなこと言ったら気まぐれに力を貸した神さまとやらにおれの腕が飛ばされたってことになるだろそれ」
「たしかに」
「おれは夜遅くまで頑張って練習したお前と戦ったつもりだった」
「……んッ、いきなり何」
「全裸で変な話をする女にキスをしただけだろ」
「全裸で変な話をしてるのは慶もでしょ」
「おれはお前に付き合ってんだろ」
「そうともいう」



「ほら、夏休みにさ」
「何の話」
「さっきの」
「大分話を戻すね。……それ、"こういうこと"をした後にする話?」
「少なくともセックスした後にする話じゃないな」
「慶がセックスって言った。破廉恥」
「それ以上にスゴイことしておきながら何言ってんだお前」
「たしかに。で、夏休みが何」
「おれが小学生くらいの時だ」
「慶がまだかわいかった時のこと?」
「そう」
「へえ」
「夏休みの宿題、あるだろ。ドリルとか、書き取りとかの」
「あったね、懐かしいなあ」
「あの宿題をお願いですからやってくださいって話をしたんだよ」
「誰に?」
「かみさまに」
「ふうん」
「おれを可愛がってくれた曾爺さんの仏壇、毎日掃除して、線香あげて、爺さんが好きだった物を買って供えてさ」
「健気」
「可愛いだろ」
「今も十分可愛い時あるよ」
「おう。それで、『お願いだから宿題やってください』って手をあわせてたんだよ」
「……今とあんまり変わってないね」
「そうか?」
「ボーダーのあの人、ほら、身長高い男の人に泣きついてたじゃん」
「二宮な」
「二宮くんって言うんだ」
「知らなくていいぞ別に」
「嫉妬しないでよ」
「……で、おれ、毎日それを夏休みの最終日までやってたんだよ」
「健気」
「だろ。で、提出日の朝に宿題開けたら真っ白だった」
「宿題は自分でやれってことなんだろうね」
「当然おれは学校にも親にも叱られるわけだ」
「だろうね」
「かわいい曾孫が困ってるんだから少しくらい助けてくれるはずだろ」
「なるほど?」
「なのに少しもおれを助けてくれさえしなかったんだから、その時におれはこの世に神は居ないんだと思った」
「やけくそじゃん」
「おう」
「でもさあ、よく考えてよ。曾爺さんの時代って識字率低いじゃん」
「識字率?」
「字の読み書きと理解ができる指標」
「お前良く知ってるな」
「慶が知らないだけだよ」
「興味ないことはさっぱり」
「知ってる。曾爺さん、若しかして字読めなかったんじゃないの。やりたくてもできなかったの」
「ああ、そう言われてみればそうかもしれん」
「曾爺さんがやりたくてもできなかったのか、本当に神さまがいないのかどうかは分からないけど」
「確かめようがないな、もう死んでるし。なら、おれの中で神は居ないままだな」
「なるほどね」
「つうか、こういう話ってこういう時にする話か?」
「少なくとも、服を着ている時にした方が良かったかもね」
「罰当たりだな」
「神を信じさえしない人の言う罰って何さ」
「何だろうな」
「とびっきりやさしい奴だったらいいけど」
「それ、罰にならんだろ」
「キッツイ罰が来るなら神さまは居たってことでいいんじゃないかな。『全裸でまぐわいながら神を語るとは何事だ』って」
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