小説

閑話・3

「おいしい」
「何それ」
「チューハイ。最近出たやつって書いてあった」
「へえ」
「倫太郎のぶんも冷蔵庫にあるよ」
「買ってきてくれたの?」
「うん」
「ありがと」
「飲まないの?」
「俺今日はいいや」
「明日仕事だっけ?」
「いや、休みだよ」
「休みなのに飲まないの?珍しいね」
「そう?」
「うん、いつも飲んでるじゃん」
「今日はいいかな」
「なんで」
「酔っ払いの面倒見れなくなるから」
「酔ってない」
「今はまだ酔ってないだけでしょ」
「介抱が必要になるまでは飲まないよ」
「そう?」
「わたしももういい大人だしね。酒の飲み方くらいわかってるつもり」
「言ったこと絶対忘れるなよ」
「……うん」
「なんでそこで少し自信なくしてんの」
「確約できない」
「確約してよ」
「します」
「いいの、気軽に約束して」
「してって言ったのは倫太郎じゃん」
「まあそうだけど、あんまり言いなりになるのは良くないと思うよ」
「確約してって言ったのは倫太郎なのにそう言うこと言うの?」
「うん。自分で言っててなんだけど、俺はなまえが勢いに押されて人の言いなりになってないかちょっと心配になった」
「なってないよ」
「本当かな?」
「本当本当」


:


「倫太郎〜」
「……」
「ねえ、倫太郎ってば」
「なに?」
「やっとこっち向いた!」
「はいはい、静かにしてね」
「なんで無視するの?」
「してないよ」
「してるよね、わたしのこと無視してスマホ触ってるじゃん」
「ごめんって」
「謝りながらスマホ触るの?」
「もう面倒くさい」
「なんでそんなこと言うの?」
なまえ飲み過ぎじゃない?」
「そんなに飲んでない」
「飲んでるよ」
「今日はちょっとしか飲んでない」
「いつもより少ないみたいけど酔いが回るの早くない?」
「酔ってない」
「缶見せて」
「これ?」
「度数がちょっと高いね、残り全部飲んでいい?」
「うん」
「結構おいしいね、でもなまえはお酒は今日はこれでおしまい」
「酔ってない」
「酔っ払いはみんなそう言うよ」
「でも飲むのはやめる」
「うん、そうして」
「褒めてくれないの?」
「はいはい、えらい」
「へへ」
「自分で言ってて何照れてんの」


:


「倫太郎はなんで構ってくれないの?」
「今構ってるじゃん」
「足りない」
「具体的には」
「もっとちゃんとわたしの方を見てほしい」
「今じゃ不満?」
「不満」
「どうして」
「スマホの片手間だから」
「ワガママ」
「ワガママの何が悪い」
「開き直るな」
「わたしは倫太郎に構って欲しいだけだよ」
「俺は今忙しい」
「スマホに?」
「そう。まだソシャゲのエイプリルフールのイベント消化しきってないから」
「エイプリルフールは今じゃなくてもいいでしょ」
「今じゃないとダメなんだよ」
「……」
「そうやってカワイイ顔してもダメだからね」
「構ってくれないの?」
「……」
「なんで面倒くさそうな顔するの」
「実際面倒くさいんだよ」
「こんなにかわいいのに」
「自分で言うな」
「かわいくないの?」
「もうなまえほったらかしにしていい?」
「なんで無視するの」


:


「もう眠いでしょ」
「眠くない」
「目あいてないじゃん」
「あいてる」
「あいてないよ、もう寝そうじゃん」
「……酔ってない」
「はいはい」
「倫太郎」
「ちょっとそのまま待ってて」
「構ってくれるの?」
「構わないよ」
「いじわる」
「くっつかないで、そのままそこにいて」
「どこいくの」
なまえの布団持ってくる」
「どこにもいかないで……」
「ちょっと我慢して」
「我慢できない」
「俺もう無視するからね」
「……」
「まとわりつかないで」
「ダメ?」
「ダメ」
「まだやってる途中だから大人しくしてて」
「何が途中なの」
なまえの寝る準備」
「まだ寝ない」
「もう寝て」
「倫太郎冷たくない?」
「冷たくない」
「わたしのこと好き?」
「……」
「わたしのこと好き?」
「それ、答えないとダメ?」
「ダメ」
「おやすみ」
「なんで好きって言ってくれないの?」
「もう寝な、眠いでしょ」
「倫太郎が一緒に寝てくれないと寝ない」
「甘えるね?」
「わたしのことが好きなら一緒に寝てよ」
「俺は酔っ払いと寝たくないからひとりで寝て」
「なんで!」
「面倒くさいから」
「わたしのこと好きじゃないの?」
「……」
「何その顔」
「面倒くさいなって思ってるだけだよ」
「いじわる、もう知らない」
「今度は拗ねてんの?」
「もうひとりで寝る、倫太郎なんか知らない」
「はいはい、おやすみ」
「……おやすみなさい」


:


「頭いたい」
「昨日介抱が必要になるまで飲まないって言ったのは誰?」
「介抱されてない」
「俺はした」
「……」
「俺はしたんだけど」
「ごめんなさい」
「いいよ」
「なんで倫太郎一緒に寝てるの?」
「……」
「何その顔」
「何も覚えてないとか言わないよね」
「倫太郎が意地悪したことはよく覚えてる」
「『わたしのことが好きなら一緒に寝て』って言ったの、誰か覚えてないとか言わないよね?」
「……」
「覚えてるよね?」
「覚えてます、けど」
「"けど"、なに?」
「昨日一緒に寝てくれなかったじゃん」
「今一緒にいるじゃん」
「うん」
「一緒に寝たよね」
「昨日寝たくないって言ったじゃん」
「でも俺は一緒に寝たよね」
「……」
「同じ布団で」
「……」
「何照れてるの」
「わたしが寝た時はひとりだった」
「俺が布団に入った時には拗ねて寝た後だったからね」
「一緒に寝てくれるなら最初から一緒に寝てくれたって良かったじゃん」
「片付けとかあったから」
「ごめんなさい」
「いいよ、なまえの面倒を見るのは慣れてるし」
「情けない」
「もう少し酒癖が良いといいけど」
「……」
「どうしたの」
「わたしのこといや?」
「嫌いだったら一緒に寝ないよ」
「好きってこと?」
「……言わなきゃダメ?」
「ダメ」
「教えてあげない」
「なんで!」

2021-04-01