小説

嫉妬の話・閑話

「どうしよう倫太郎」
「なにかあった?」
「わたし恋愛相談向いてないかもしれない」
「急すぎて話が見えない」
「恋愛相談されたときに親身になれてない気がする」
「具体的には?」
「相談者の気持ちを汲み取って共感の相槌を打てていないのでは?って思ったんだよね」
「ふうん」
「すぐそんな男別れちゃえばいいのにって思う」
「それは相手の男が憎いから?」
「うん」
「共感とかの問題以前の話じゃん。それ、いつものなまえの病気だろ」
「病気ではない」
「友達の彼氏に嫉妬して彼氏に怒り出すのは病気だよ」
「わたしからしてみれば倫太郎が急に横から出てきて友達を取っていった奴に対して腹を立ててないことの方がヘンだよ」
「そう?」
「だって今までわたしと一緒に遊んでた時間が知らない奴のせいで消えるんだよ」
「え〜」
「宮に彼女ができたことをちょっと想像してみてよ」
「なんで俺の友達の話でその双子を出してくるんだよ」
「倫太郎の友達で思いついたのが宮だったから」
「彼女が出来て浮かれた侑のウザさにムカつくことはあっても侑の彼女には何も思わないし治に彼女が出来ても何も思わない」
「嘘でしょ」
「何で俺が嘘つかないといけないんだよ」
「えーぜったい嘘」
「嘘じゃねえよ」
「じゃあわたしと付き合う前にわたしに彼氏ができることを想像してよ」
なまえに彼氏ができたんだなって思う」
「なんでそうなるの?」
「すごい不満そうでウケる」
「もっと言うことあるじゃん!思うこともあるじゃん!」
「え〜」
「横から出てきて倫太郎との時間を奪う知らない男に対してもっと腹を立ててよ」
「友達にできた恋人のことを嫉妬して欲しがるなまえが面倒くさすぎる」
「その面倒くさい女を好きになったのは誰?」
「俺だね」
「……」
「自分で聞いておきながら照れてるなまえのことを好きになったのも俺だね」
「……二回も好きって言わなくていい」
「ははは」

:

「にくい男の話をこの間したんだけどさ」
「友達の彼氏のことね」
「そう」
「今回はどうしたの」
「『つくったご飯美味しいって言ってくれない』って友達が言ってたんだけど、あんまり親身になれなかったんだよね」
「それ、俺もあんまり言ってないな……やっぱりちゃんと言った方が良いよね?」
「倫太郎がご飯をおいしいのかおいしくないのか分からない感じでいっぱい食べてるところが好きだからあんまり気にしたこと無い」
「え〜」
「だから友達の話もちゃんと聞けてなかったかもって思っちゃった」
「……俺そんな風に食べてんの?」
「うん」
「そうなんだ?ぜんぜん意識したことなかったな」
「でもいっぱい食べてるから好きなんだろうなって思ってた」
「うん。なまえのご飯おいしいから好きだよ」
「ありがとう。知ってるけどね」
「そう?」
「倫太郎の食べる量でわかる」
「そんなにわかりやすい?」
「うん。昨日ごはんおかわりしていっぱい食べてたから好きなやつだったんだなって思った」
「……うん」
「倫太郎が照れてる」
「言わなくていいよ」
「倫太郎はわたしの作ったごはんが好きなんだ」
「うん」
「わたしは照れてる倫太郎がかわいいから好き」
「言わなくていいってば」
「ふふふ」


:


「話を戻すけど、友達が『美味しいって言ってくれない彼氏にご飯作ってるの意味わからなくなった』って言っててさ」
「うん」
「かわいそうだなって思ったけどあまり共感できなかったって言うか」
「俺もちゃんと言わないからね」
「倫太郎の場合言わなくてもわかるから気にしたこと無いっていうのはあるんだけど」
「……うん」
「倫太郎が恥ずかしそうにしてる」
「飯食ってるところそんなにみられてるとは思わなかった」
「ふふふ」
「で、話の続きは」
「あっ」
「話して」
「わたしは言葉にするとかしないとかにこだわりはないんだけど、友達は違うんだって。美味しいって思って食べてることが分かったとしてもちゃんと言葉で言ってもらいたいんだって言ってた」
「へ~」
「いただきますとごちそうさまは言ってくれるけどそれだけは寂しいって言うんだよ」
「そうなんだ」
「『なまえはどう思う?』って言われた時にわたしは気にならないって言うのはさ、なんかおかしいじゃん」
「そうだね、友達が共感して欲しくてなまえに話をしているなら『気にならない』って答えるのはダメだね」
「だから『ちゃんと言って欲しいよね!』って心にもないことを言っちゃった」
「本音は?」
「そんな男さっさと捨てればいいのに」
「ウワ」

:

「何で引いてんの」
「引くでしょ」
「倫太郎自分で聞いてて引くのはひどくない?」
「ド直球で来るとは思ってたけど直球過ぎて引いた」
「だってそうじゃん!友達に嫌なことする男ならさっさと捨てちゃえばいいのにって思うよ」
なまえの言いたいことはわかる」
「だってわたしは友達の方が大事なんだもん」
なまえにとってはそうだろうね」
「わたしから友達を奪ったくせにひどいことするの?って思ったら余計にその男早く捨てなよ!って思う」
なまえの言いたいことは分かるけどなまえの気持ちは全然わからない」
「なんでよ」
「俺は友達の恋人に嫉妬しないから」
「よく考えてみてよ!どう考えても今友達が付き合ってるわたしから友達を奪った男よりもっといい男いるって思わない?」
「まあ、男も女も星の数ほどいるからね、今の相手より良い人はいるだろうね」
「そう思うでしょ?」
「でも今の男と別れてもっといい男と付き合った時にキレるのはなまえだよね」
「そうだよ、よくわかったね」
なまえの荒れっぷりに付き合ってたらなまえの考えることはわかるようになるよ」
「そんなにわかりやすい?」
「俺が知ってるだけで友達に彼氏が出来たって理由で三回はヤケ酒してたじゃん」
「……」
「今の男と付き合い続けても別れて新しい男と付き合ってもなまえが怒るの面白すぎ」
「わたしは面白い話じゃなくて真面目な話をしてるの」
「ごめん、なまえには申し訳ないけど荒れて泣きついてくるなまえが面白いから好きなんだよね」
「わたしはぜんぜん面白くない!」
「そうやって必死になるところとかさ」
「必死になってない」
「どうみても必死だろ」

:

「で、友達は続きそうなの?」
「あれは別れる気なさそうだったね」
「へえ」
「ごはんがおいしいって言ってくれなくてもあの男と付き合い続ける顔してた」
「そうなんだ」
「だから話聞いてるときに『そんな男捨てたらいいじゃん!』って言ったら外道みたいになっちゃうじゃん」
「ちょっと引くよね」
「そう思う?」
「俺はそう思う」
「やっぱりそうだよね?」
「うん」
「いつも話聞いてるときに『ひどい!』って言った方がいいのか『そっかあ……』って言って聞いておいた方が良いのかわからなくて悩んでる」
「いつものなまえの感じで行けばいいじゃん」
「いつもの感じ?」
「『その男さっさと捨てちゃえばいいじゃん!』って感じ」
「そんなこと言ったら二度と話ししてくれなくなりそう」
「彼氏の話はしなくなるだろうね」
「彼氏だけの話じゃなくてわたしとも遊んでくれなくなるかもしれない……」
「ははは」
「笑い事ではない」
2020-10-31