小説

AM10:30、駅前にて

「今日待ち合わせ何時だっけ」
「駅前に十時半だよ」
「一時間後か」
「うん。準備しなくていいの?遅刻しない?」
「俺はすぐに終わるから大丈夫だよ」
「いいな」
なまえはいろいろあるからね」
「カワイイ顔つくりたいし服もいっぱい悩みたいから一時間じゃたりないよ」
なまえはいつも楽しそうにしてるからいいね」
「だって楽しみだからね」
「でも今日は服、すぐ決まったでしょ」
「うん」
「昨日から決めてたんだ?」
「ううん。今日絶対着るって決めてた服があったんだよ」
「へえ」
「だから今日は服には時間かからないけどアクセサリーと化粧に時間かかりそう」
「なんか気合入ってんね」
「うん!」
「その服新しいやつ?」
「うん。新しいの、おろすならこういう時かなって思って」
「へえ」
「かわいいでしょ」
「後ろも見せて」
「どう?わたしはかなりカワイイと思ってるし似合ってると思ってる」
「いいね。俺は好き」
「ありがとう。ここで『なまえちゃんとてもよく似合っててカワイイ』が出てくるともっとうれしい」
「はいはい」
「褒めてよ」


:


なまえ、洗面台使っていい?」
「ごめん、いま退ける!倫太郎もう着替えたの?」
「見てたろ」
「それにしても準備が早すぎる」
「俺の準備は早いよ」
「ここまで早いとは思わなかった」
「言ったじゃん」
「三十分かかってない」
「三十分もあれば俺は準備が終わるんだよ」
「倫太郎もカワイイ顔つくったり服にいっぱい悩んだらいいんじゃない?」
「俺の顔はなまえがカワイイって言うからつくる必要がないし、服は昨日準備した」
「昨日服出してたのはそういうことか」
「そうだよ」
「準備が良い。わたしも前日考えた方がいいのかな」
なまえは前日に悩んでも当日また悩みだすでしょ」
「うん」
「デートの服で悩んでるなまえを見るの、俺けっこう好きだよ」
「そう?」
「俺が目の前で見てるのにどっちがいいかなって悩みだすのが面白くて」
「どっちがいいか教えてくれたっていいじゃん」
「教えたら意味ないじゃん」
「なんで」
「俺のためになまえが悩んでるところを見るのが良いんだよ」
「意地が悪い」
「俺のこれどう?ダサくない?」
「一周回って見せて」
「こう?」
「一周回ってるときの倫太郎、かわいくて好き」
「俺はカッコいいって言われる方が好き」
「はいはい」
「言えよ」


:


「じゃあ、俺そろそろ行こうかな」
「……家出るの早くない?」
「そう?」
「待ち合わせまで三十分以上あるよ。今から行ったら二十分以上待つじゃん」
「駅前で寄り道してたらすぐだよ」
「どこ行くの」
「本屋」
「雑誌発売日だっけ」
「電子版は買ったけどね。本屋に並んでる侑の表紙でも見てやろうと思って」
「倫太郎の友達?」
「高校の時のチームメイト」
「へえ。倫太郎表紙になったりしないの?」
「ならねえよ」
「なったら一番に買いに行くから教えて」
「それ言うと思った。絶対言わない」
「えー」
「家でも自分の顔見るの嫌だからね俺」
「わたしは家でも見たい」
「俺の顔だけじゃダメなの?」
「わたしは欲張りだからね」
「胸張って言うモノじゃねえから。なまえ、窓は閉めたから後はドアだけよろしく」
「わかった、カギ閉めは任せて」
「いってきます」
「いってらっしゃい」


:


『家を出て待ち合わせ場所に向かってる』
『りょーかい。気を付けてね』
『はーい。着いたらまたメッセージ送ります』
『わかった。今日かなり混んでるから探すの大変かも』
『倫太郎が見つけられなくてもわたしが見つけるから大丈夫だよ』
なまえ探すの難しいんだよ』
『人混みに紛れちゃうからね。倫太郎はすぐ見えるから探しやすいのにね』
『俺でかいからね』
『うん』 

なまえどこ?』
『倫太郎が見つからない』
『俺改札の手前の柱のところにいるんだけど』
『今日の待ち合わせ場所は時計のところだよ』
『間違えた』
『改札前は前の待ち合わせ場所だよ』
『ごめん、今からそっちに行くからそのまま待ってて』
『うん』
『すぐ行く』


:


「倫太郎!こっち」
「いたいた。ごめん、お待たせ」
「ううん。いま来たところだから大丈夫だよ。倫太郎がドジするのめずらしいね」
「ごめん、本当に間違えた」
「待ち合わせ時間に間に合ってるから大丈夫だよ」
「すごくギリギリだけどね……その服新しいやつ?」
「うん。新しいやつおろしたんだけど、どうかな」
「後ろも見せて」
「こう?」
なまえちゃんにとてもよく似合っててカワイイ」
「ありがとう」
「耳のやつもいいね」
「ほんとう?」
「この間ネットで見てたやつ?」
「そう。かなり色で悩んだから褒められて嬉しい」
「俺が二色買えばいいじゃんって言ったやつか」
「うん。でもこっちの色にしてよかった。この服に合うし」
「よかったね」
「うん。倫太郎も今日カッコいいね」
「ありがと」
「ふふふ」
「何照れてんの」
「だってなんかはずかしくて」
「そう言われたいって言ったの、なまえじゃん」
「それはそうだけど改めて言われると照れない?」
「まあね」


:


「隣駅の映画館に行くんだっけ」
「そう。十一時半の映画の席が取れたらいいなって」
「けっこうすぐだからもう行こうか」
「うん。いい席あると良いね」
「いい席欲しいなら予約してもよかったんじゃない?」
「こうして行き当たりばったりみたいなことをするのが良いんだよ」
「そう?」
「倫太郎と初めて映画デートしたときに座席無くて映画見れなかった時あったじゃん」
「それはもう忘れて」
「なんか懐かしくなっちゃって、行き当たりばったりもいいなって」
「そう?俺にとっては全然良くない思い出だけど」
「付き合いたてのころのことを思い出すから、わたしは凄く楽しくて好きだよ」
「席なかったらどうする?」
「次回のチケットを取って、それまでどこかでお茶しようよ」
「いいね」
2020-09-06